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 テオロス叢書01 コレージュ・ドゥ・フランス芸術創造講座シリーズ開講講義

 クリスチャン・ドゥ・ポールザンパール著

チラシ
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 あとがきにかえて

 

 1530年に、コレージュ・ロワイヤルの名のもとにフランソワ一世から任命されたヘブライ語とギリシャ語および数学の「王宮の読者」とよばれた教授による講座として創設されたコレージュ・ドゥ・フランスの長い歴史には、「ドケト・オムニア(すべてを教える)」というモットーにもとづいた学問の拡張と講座数の増大という側面がある。しかし、2004年にいたるまで、芸術系分野の講座はーー作曲家ピエール・ブーレーズによる1976年の開講講義と96年までつづいた『音楽における創意、技法と言語』講座をのぞいてーー設けられていなかった。このことから当時コレージュの神経薬物学講座の名誉教授であったジャック・グロウィンスキたちの委員会において、一講座をのぞいてそれまでの終身にわたる教授にたいし、単年度ごとの教授による芸術創造講座シリーズがあらたにもうけられた。こうして建築・音楽・演劇・美術などのあらゆる芸術分野の、これまでの講座と比較しても研究室にとどまることなく、それぞれの創造の現場の第一線で活躍するスペシャリストによるまさに「つくられつつある創造」を教授する芸術創造がはじめてコレージュに迎えられたのである。

 

 この芸術創造講座の初年度(2005–06年)のためのあたらしい教授として、教授会において先達たちが自由に選ぶというコレージュの慣行にもとづいて、ロラン・レシュト教授(ヨーロッパ中近世芸術史講座)とピエール・ローザンヴァロン教授(近現代政治史講座)たちによって、建築家・都市計画家クリスチャン・ドゥ・ポールザンパールが迎えられた。このような経緯をふまえ、これまでの講座同様、あたらしく任命された教授を華々しく紹介する開講講義の冒頭において、新教授みずからが、まず「創造を教授することは可能なのか」と、このあたらしい講座の意義をといかけ、さらにはこれらの教授たちの名前をあげている。 

 

 コレージュ・ドゥ・フランスの講義は、その創建当時から、だれもが(無料で登録も不要で)聴講が可能である。いいかえれば聴講におとずれている聴衆は、その分野の専門家のみばかりではなく、その分野に関心をもつ一般市民である。一方、ヨーロッパで芸術として位置づけられている建築は、街並を形成し、内部を訪れることができるとはいえ、コレージュにおけるこの講義は、さらに建築が社会にひらかれるための大きな一翼をになうことになるであろう。

 

 この初年度の数回にわたる講義は、ポールザンパールにとって、みずからがたずさわってきた建築・都市計画プロジェクトの「これまでを振り返るよい機会」であるとともに、とくに、この開講講義では、おりにふれ古代にはじまり、そこに典拠をもとめたルネサンスの時代から啓蒙の時代をへて、近代から現代にいたるフランス建築の歴史にふれ、さらには近未来の建築のありかたに対する危機感をすらいだきながらも、ここで語られているのは、あくまでも建築史をふまえた上での理想のアーキテクト像であり、プロフェッションとしてのアーキテクトのありようである。さらにはアーキテクトにとって建築という行為そのものが携えているモラルについてであり、建築そのものが内在させているはずのエチカについてである。