『作曲のパラドックス』関連記事

テオロス叢書02 コレージュ・ドゥ・フランス芸術創造講座シリーズ開講講義

 パスカル・デュサパン著

チラシ
PD_tracte_web.pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 57.1 KB

「あとがき」より

 

 原書は、昨年パリの劇場で入手しそこねたパスカル・デュサパンのオペラ『ファウスト 最後の夜』のDVDをインターネットで注文するさいの送料負担がわりの追加のなかに含まれていた。じつは、それまで、かれがコレージュの教授に任命されたこともきいていなかったが、友人によって届けられたこの講義録の内容に、たちまち惹きつけられて、すぐに訳文をつくってみようと思いいたった。デュサパンのパラドックスにみちあふれたテクストには、 それがまた本書のおおきな魅力にもなっている ときとして迷路にひきこまれそうになることもあったが、その作業は、デュサパンが引用しているブーレーズのことばを借りるなら、訳者にとっても「偶然」に「意志による独学者」として充実した時間となった。あるいは、生物学者ジャック・モノーのコレージュにおける講義をもとにした著書から引用するなら、この「不変性への仕掛けによって取り込まれ,保存され、複製された偶然が、こうして秩序・規則・必然に転嫁され」、「その本性そのものからして本質的に予見不可能な出来事」である《突然変異》とよべるものをおこしていたのだと考えている。

 

 本書の図版で紹介されているピアノのための「ミニアチュア」の手稿楽譜からは、デュサパンが詳述しているエクリチュールについてよく理解できる。緻密で定規をあてたようにまっすぐな縦の線、正確にリズムをあらわす音符の間隔は設計図を見るようである。東京日仏学院のサイン帳には、かれの見事な筆跡が残されており、カルチエのコンセールのプログラムノオトで紹介することができた。

 

 開講講義の模様は、すでにDVDが市販されており、楽譜を書く手の動きを説明しながら、ふちをたどるようなデュサパンの右手の動きは、それ自体が音楽の時間と空間を表現しているかのように、とても美しい。あるときには、時間のブロックをあらわすような動きもある。

 

 ……本書を手にされている偶然が、それがモノーの指摘するように、厳密な意味での本質的なものであるにせよ、そうでないにせよ、読者のみなさんのなかにも、《突然変異》がもたらされることをねがっている。デュサパンも「学ぶことは他者になること」だと明言しているのだから。